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美由 ファゴット担当

美由 (みゆ)

 美由は、ファゴットを担当している。1年と楽器担当の時から、ファゴットを選んだ。もちろん、1人だけだった。ファゴットの低く響きのある音が好きだったことと、クラッシック音楽が好きで、将来ずっと吹いていられると思ったからだ。もちろん、その時点でファゴットの値段など知るはずもなかった。美由はおしゃれなことが好きで、特に前髪には命をかけている。毎朝10分は前髪と格闘して絶妙なカーブを作ってくる。雨に濡れてセットが乱れると機嫌が悪くなるほど、前髪を気にしている女子中学生である。
 ファゴットは先輩に一人いて、他の高校から借りていた。美由のファゴットは、顧問の三田が所有している物を借りて練習をしていた。部活内では2枚リードのファゴットを教わることができないので、外部講師のところにレッスンに行くこととなる。このことが奏してめきめきと上達していくのである。
 土日はほぼ毎週レッスン。先生はプロの奏者で、厳しいが的確である。「1日休めばそれを補うのに3日かかる」まさにその教えを守り、楽器は毎日持ち帰り、部活のない日も必ず基礎練習を欠かさなかった。部活の中では、他に頼れる人がいない。でも、この「音」に惚れたのだから、泣き言は言わなかった。前髪を気にする現代っ子ながら、意外と芯は強いようである。

 2年になるとき、1年生がファゴットをやりたいと言うことで、美由が使っていたファゴットは三田に返却をして後輩に譲らなければならなくなった。そこで、美由はレッスンに通っている先生所有の物を借り受けて、演奏を続けるのであった。美由の両親も、どこまでやり続けられるかも分からない中で、楽器を購入するよりは、借りる方が結果的には安いと思い、借りることとなるが、返却時に20万円ほどかかるオーバーホールを行うことが条件ではあった。買えば120万円はするのだが、楽器が大きい分、調整も楽ではない。仕方が無いと諦めるしか無かった。
 美由は、両親の想いを知りつつも、ファゴットをできるところまでやりたいと言う思いであった。

 2年の後半になると、体が成長をはじめた。ぐんぐん背が伸び始め、ファゴットを軽々持って様になってきた。ぐんぐん成長すれば、お腹もぐんぐん減る。何でもたくさん食べて、でも太らない。食べても食べても満足できないほど、食べることが好きになっていく。部活の昼食の時、お弁当の量が多くて食べられない子から、「いいよ、食べて上げる!」と、喜んでみんなのお弁当の残りを食べるのが、楽しみでもあった。
 部員達も、一応女子の立場で、お母さんが毎週作ってくれる「お弁当」の大切さは分かっている。残して持ち帰るのは、お母さんに申し訳ないと言う気持ちはある。美由のおかげで、「おかあさん、お弁当ありがとうね。全部食べたよ」と言えるのである。

 そんなこともあり、美由は、他と違う楽器で、なかなかわかり合えないという障壁を、別の角度から交わしていけるようになり、いつもみんなの輪の中にいて楽しく会話ができていた。美奈は、1年のアンサンブルの時から、木管重奏として一緒に練習をしてきた。美由の、そういう性格がうらやましく感じることもあった。美由と一緒にいることで、自分も仲間にいられるという安心感もあった。

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※ この物語は、とある、地方中学校を舞台に繰り広げる、無謀かつ純粋な挑戦の記録です。
※ ストーリー全体はフィクションでありますが、一つ一つのエピソードは実話を基に、アレンジをして書かれています。
※ 登場する実在の学校、団体、個人等と、全く関係・関連はありません。
※ この作品「めざせ!東海大会♪~ある吹奏楽部の挑戦~」は、著作物であり、版権は著者に依存します。無断転載、転用はお断りします。
※ 原作者(著者):ホルン太郎 なお、この作品は、取材で集めた実話をヒントに新たに書きおろしたフィクションです。
※ この作品は、一般市民団体「まちなか演奏会実行委員会」によって公開されています。

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